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ヨネズケンシ インタビューまとめ

2022年 02月 11日
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米津玄師
米津玄師がPlayStationのCMソングとして書き下ろした新曲「POP SONG」を2月7日に配信リリースした。


TBS系ドラマ「リコカツ」の主題歌「Pale Blue」以来、約8カ月ぶりの新曲となる「POP SONG」。
1月23日に本人が出演するPlayStationのCM映像がゲーム端末の中で公開されると、
米津のインパクトのあるビジュアルや壮大なスケールの映像、ユニークなサウンドの楽曲が大きな話題になった。


ロマ音楽のような異国感のあるフレーズやキッチュな効果音が幾重にも折り重なる、
かなりトリッキーな仕上がりとなった「POP SONG」。そんな新曲の制作背景から、
ミュージックビデオと連動したCMのビジュアルイメージについて、ゲームカルチャーに対しての思いなど、さまざまな話を聞いた。


取材・文 / 柴那典
この10年で一番何もしなかった年
──前作「Pale Blue」のとき以来のインタビューになりますが(参照:米津玄師「Pale Blue」インタビュー)、改めて2021年はどんな年でしたか?


うーん、覚えてないですね。去年はここ10年の中で一番ミュージシャンとして何もしなかった年だったと思います。
シングルは1枚出しましたけれど、ツアーもなかったし、音楽家としてはそれだけしか動いていない。
30代になってひとつの節目を迎えたというか、一旦落ち着く年だったのかもしれないですね。まあ、意図的にそうしたというよりは、
結果的にそうなった感じですが。



──1人で過ごすパーソナルな時間が多かった?


そうですね。家でなんとなく過ごす時間が多くて、映画ばかり観ていました。YouTubeの関連動画をたどっていくようなノリで昔の映画を掘っていったり、
昔に観たけれどあまり内容を覚えていないものを改めて観たり、多いときには1カ月に50本くらい観ていたと思います
音楽じゃないところから音楽にフィードバックできないかと思って、映画をたくさん観ていた気がしますね。



「くだらない」はネガティブとポジティブの両義性のある言葉
──例えばどんな映画を観ましたか?


いろいろ観ましたけど、私利私欲で犯罪を犯すのではなく、
自分の理想や信念みたいなものをこの世に顕在化させることを目的に罪を犯す悪役が出てくる映画ばかりを観ていた時期があって。
その頃の体験が「POP SONG」を作るにあたって大きな影響を及ぼしている気がします。「
劇場版パトレイバー」や「セブン」、黒沢清監督の「CURE」とか、そういう作品に共感を覚えることがあって、
それを音楽でやれないかというところもありました。


──どういうところに共感を覚えたんでしょうか?


ここ最近に始まった話じゃないですけれど、例えばSNSを見ても、いつもいさかいが起きている。
義憤という言葉でくくられるような、1つの方向に向かうなんらかの大きな流れがある。
でも、その中を見てみると、ものすごく悪辣な言葉が目に入って「みんなどうかしてるな」と思うことがあるんですよね。誰も彼もまともに見えなくて、この世に生きている人間はみんなどこかイカれているんじゃないかと思ってしまう。
でも、そういうものに注視しようとすればするほど視野が狭くなって、ふとした瞬間に「どうかしてる」と言っている俺が
一番どうかしているんじゃないかとも思ってしまう。俺は一般的に見たら特殊な生活を送っているし、
自分のような立場でいる人間は非常に少ない気もする。
それでも「世の中でまともなのは自分だけなんじゃないか」という気分になることが多々あって、
「POP SONG」は、その感覚をひっくり返した形として表現しました。



──価値の転覆ということですよね。挙げていただいた映画にもそういうモチーフがありますし、
「POP SONG」を聴き終わったときにもっとも印象に残るフレーズとして「全部くだらねえ」という言葉があったんです
。そこにも「価値をひっくり返す」というなんらかの共通するモチーフを感じました。


「くだらない」というのは、語義通り捉えるとものすごくネガティブな言葉ですけれど、
自分にとってはネガティブなだけではなくて。立川談志も「人生は死ぬまでの暇つぶし」と言っていましたけれど
、それってある種の救いの言葉だと思うんです。肩肘張って生きている人も「どうせ人生は死ぬまでの暇つぶしの連続なんだ」と思えば肩の力が抜ける。
そんないい言葉でもあると思う。みんな生きることに必死すぎて、その反対にあるくだらない遊びのようなものを遠ざけようとするじゃないですか。
でも、遠ざけようとすればするほど、翻って生きる意味すらわからなくなっていく。
果たしてどれくらいの人間がそのことを意識しながら生きているだろうかということを考えたりします。



──歌詞には「君だけの歌歌ってくれ」というフレーズがありますよね。それと「全部くだらねえ」が対になっている感じもしました。


「全部くだらねえ」という言葉にネガティブな部分とポジティブな部分の両方があるのと同じように、
この曲自体にも両義性を持たせたかったんです。
両義性があるものが好きで、矛盾をはらんだものに魅力を感じるところがあって。
「君だけの歌歌ってくれ」というのも、この曲のこのトーンじゃないとなかなか使わない、歌いたくない言葉なんです。
お前だけのものが果たしてこの世に存在するのかと言われたら、それはないと思う。
所詮1人でやれることは限られているし、1人の人生から生まれてくるものなんて、たがが知れている。
それは自分に対しても、ありとあらゆる人間に対してもそう思うんです。
だからこの言葉を曲の中にはめ込むためには、こういう形をとらなきゃいけなかった。
「それもまた全部くだらねえ」という言い方をすることしかできなかったんだと思います。


変身→セーラームーン→POP SONG
──「POP SONG」はPlayStation側からCMソングを作ってほしいという話を受けて書き下ろした楽曲ですよね。作り始めたのはいつ頃でしたか?


去年の秋頃に着手しました。
小学生の頃からPlayStationでずっと遊んでいたし、自分の人生の一部にあるものだから、
このオファーは願ってもない話というか、面白くやれそうだなという印象でした。で、
書き始めたのが映画をめちゃめちゃ観ていた時期と重なるんです。
だから、その頃の体験が「POP SONG」を作るにあたって大きな影響を及ぼしている気がします。



──ロマ音楽のようなこれまでにないテイストを取り入れた楽曲になっていると思いましたが、曲調やサウンドについてはどんなイメージでしたか?


PlayStationのCM曲という前提で、この曲をどんなものにするべきかを考えたんですね
。PlayStationは名前の通り、遊ぶものじゃないですか。だから曲の中でもいっぱい遊んでやろうという気持ちがあった。
実はミュージックビデオのイメージありきで作ったんですよ。MVの中で“変身したい”という思いがあったので、変身が1つのキーワードとしてありました。



──CMとMVの映像では兵士が米津さんに変身しますが、あのアイデアは米津さん発案だったんですか?


先導したのは自分です。
具体的な部分や技術的な部分はもちろん児玉(裕一)監督が考えたものですけれど、
身なりやコンセプトは自分のアイデアです。


──そのコンセプトからどのようにこの曲調にたどり着いたのでしょうか?


「変身したい」というのが最初にあって、そこから小さい方法論を膨らませていった感じです。
「変身」というところから「(美少女戦士)セーラームーン」が思い浮かんで、変身シーンの効果音を曲にちりばめるというアイデアが出てきました。
その音源をどうしようか悩んで、歴代の「セーラームーン」の音響制作をしている会社に依頼し
、新しくあの変身シーンの音を再現した音源を作ってもらって使っています。
そのほかに、いい意味でのチープさが欲しかったので、
YouTuberがよく動画に使っているような歓声、心音、鳩時計などのSEなんかも作ってもらって、ちりばめました。曲の中にそういうものを落とし込んだらどうなるかという、小さい方法論から膨らませて坂東(祐大 / 「海の幽霊」より共同で編曲をしている音楽家)くんと
バランスをとっていったら、最終的にこういう形になったという感じです。



変身はある種の開き直り
──そもそも変身をしたかったのはなぜですか?


開き直ったんだと思います。……開き直ったというと語弊があるかもしれないですけれど、
自分がデザインした仮装をしているというのは、自分自身の体がキャンバスになっただけとも言えるわけで。
子供の頃から紙の上とかパソコンの中で絵を描いていたので、そういう回路は持っていたんです。
その回路が今まで自分の肉体に向かなかっただけ。でも齢30になって
、ある種の開き直りのおかげで、そういうことが可能になった。
5年前や10年前だったら自分の身体性にそれがそぐうわけがないと思って、絶対にそんなことをやらなかったはず
実際にやってみたらそんなに大したことじゃなかったなという感じですね。


──この姿の米津さんは、普段の自分とは違うペルソナですか?


どうなんでしょう。
これが自分のなんらかのペルソナであるという意識はないですね。
もしかしたらベロベロに酔っ払っている俺に近いのかもしれない。
パブリックには見せていなかったけれど、自分の中には昔からあって、
それを表現する回路が歳を取るにつれて明確になっただけなんじゃないかと思います。


──この変身は、やってみて気持ちよかったこと、心地よかったことでしたか?


気持ちいいというよりは、違和感がなかったです。
初めての体験だったので、どうなるかと思ったんですけれど、普通に楽しかったです。



──米津さんからのアイデアに対して、CM制作側はどういうリアクションでしたか?


こういう形にしてくださいというオーダーもなかったですし、
やりやすいようにさせてくれるありがたい環境だったので自由に作らせてもらいました
自分にとって楽しいと思えることを今の自分のモードでやるのが一番似つかわしいという感じでした。


所作も表情も自分自身の中から出てきたもの
──大勢の兵士たちが出てきて、米津さんが現実世界ではできないような動きを繰り広げるMVは、
まるでゲームの世界に入ったようなインパクトのある映像でした。撮影は相当大変だったんじゃないでしょうか?


3日間くらいかけて撮ったんですけど、今までのMV撮影の中で一番時間がかかりました。



──映像の中での米津さんの振る舞い方や表情演技は、監督や制作側と話し合いながら決めていったんでしょうか。


そこは自分のやりたいものが明確にあったので、あまり制作陣とは話さなかったですね
。強いて言うならば、いつもお願いしているダンスの師匠の辻本(知彦)さんに教えてもらえるところは教えてもらいつつ
、基本的には自分の中で考えているものだけで完結させるつもりでやっていました。それで、実際にやってみてわかったこともたくさんあって。


──わかったこと、というと?


ワンピースにカラータイツとヒールのある靴を合わせて着たんですけど、
ああいう服装をすると、身体的な表現も自然としなやかになることを辻本さんに教えてもらいました
最初はもっと力強い感じでやりたかったんですけど、実際に動いてみたらダンスを踊るにしても
、ああいう服装に合った所作や美しく見えるラインがあるということがよくわかったんです。ちなみに撮影のとき、
3針縫う怪我をしたんですよ。


──え? そうなんですか?


MVのラストカット、兵士が歓喜してワーっと外の世界に出ていくシーンで。
その撮影が最後のほうで、兵士を演じてくれた皆さんは重い鎧を着ているし、剣を持っているしで、みんなヘトヘトになっていて。
これは俺がどうにかその場を司らないといけないと思って、大声を出して、手をガッと上げて盛り上げてたら、手をクレーンカメラにぶつけていたんです。
みんな盛り上がってくれて、その勢いのまま次のテイクに行こうと思ったら、
向こうからスタッフが飛んできて、気付いたら血が流れていました。それで最終的に3針くらい縫うに至りました。


米津玄師がポップソングを愛する一番の理由
──今回の「POP SONG」は、そもそも曲の発想にも、
ビジュアルのイメージや映像での振る舞い方にしても、既存の常識を撹乱する、ある種のトリックスター的な存在感があると思います。
それは米津さんが先ほど言った“楽しさ”に結び付くものとしてありますか?


ポップソングほどラジカルなものはないと思うんですよ。言い方が難しいんですけれど、ポップソングには自分を出さなくて済むというか。
もちろんこれまで作ってきた曲は自分の精神や技術によるものだし、自分の人生で培って生まれてきたものであるという意識はあるんですけれど、
同時に自分のものでない感じもある。そこがポップソングのよさの1つだと思っていて……というのも、自分は地域性みたいなものが苦手で。


──地域性?


要は故郷とか、ローカルであるということ。帰属意識と言ってもいいかもしれない。
それが自分にはあまりないし、どこかに属したくないと思う部分がすごくある。それを可能にしてくれるのがポップソングなんです。
どこまで行っても自分のことを韜晦できるもので、そこに心地よさを感じるんです。


──“ポップ”なものには、1つの場所のローカルルールや慣習に縛られない普遍的なものでつながることのできる強さがあると思います。
そういうものへの思いが「POP SONG」という曲名を付けた理由である?


そうですね。そういうものを作るためには、適性もあるとは思うんですけれど、非常に複雑な手順を踏まなければいけないと思っていて。
ポップなものにたどり着くためのやり方は、時代によっても違うし、そもそも自分のコントロールだけでどうにかなるものではない。
だからそれに挑むほどラジカルなものはないと思うし、やり甲斐もある。俺がポップを愛する一番の理由はそれなんじゃないかと思います。


米津玄師
ゲームで得た世の中を捉えるための解像度

──今回はPlayStationのCMソングということもあるので、
ゲームとの関わりについても聞かせてください。小さな頃からゲームに親しみが深かったと思いますが、
米津さんがゲームカルチャーから受け取ったものって、どんなものですか?


人間をざっくりとヤンキーとオタクという2つのジャンルに分けるならば
、自分はオタク側の人間であって、生まれたときからそういう魂の形をしていた実感があって。
なんでこうなったかというと、何かにつけて想像していたことが大きかったと思うんです。
自分の今生きている現実から遠く離れた、どう足掻いても起こり得ないようなファンタジックなことが巻き起こる世界というものを常に思い描いていた。
ファンタジーは小説にもマンガにも映画にもありますけれど、そういうことを自分に最初に教えてくれたのがゲームだったんです
目に見えないものやこの世に存在しないもの、存在しないと思われているけど本当は存在しているかもしれないもの……そういうものを感じることで、
現実が拡張するというか。コントローラーを通してゲームの世界に没入していく体験によって、
こういう世界が本当にどこかにあるのかもしれないという実感を得てきた気がします。
例えばRPGのようなファンタジックな世界に、キャラクターを動かすことによって没入する。その世界から帰ってきたあとには、
現実を生きる解像度が上がっていて、なんの変哲もない道の先にそういう世界が広がっているんじゃないかと思えるし、
その片鱗を見つけられるような気がするんです。それはこの世の中を捉えるための解像度が上がるということだし
、生きるうえでものすごく重要なことだと思う。ゲームにはそういうことを教えてもらいました。


──いろんなジャンルがありますが、米津さんはどういうジャンルのゲームが好きですか?


基本的にはRPGですね。1人でじっくりやって物語の中に没入していくゲームが一番好きです。


──以前、音楽ナタリーでは10代の頃にプレイしていたという「
ワンダと巨像」のインタビューに答えていましたが(参照:「ワンダと巨像」×米津玄師インタビュー)、
ほかに好きなタイトルを挙げるなら?


「ファイナルファンタジー」は小学生の頃からずっとプレイしていて好きですね。
あとは「女神転生」シリーズや「アークザラッド」シリーズにもハマりました。「UNDERTALE」も好きなタイトルです。



──米津さんがもしゲームクリエイターだったら、どんなゲームを作ってみたいですか?


群像劇みたいなものは作ってみたいですね。
「サガ」シリーズみたいないろんなキャラクターの視点を通して物語が浮かび上がってくるものはいいなと思います。
「オクトパストラベラー」というゲームは8人のキャラクターがみんな主人公で、
その1人ひとりに独立したストーリーがあって、それが緩やかに絡み合いながら、
最終的に1つの結末にたどり着いていく作品で。ああいうものは面白いなと思います。



──わかりました。では最後にシンプルな質問をさせてください。2022年はどういうことをしたいですか?


うーん、なんだろうな。引き続き楽しく生きられたらいいなとは思っています。
だんだん、やりたいことのバランスが自分の中で変わってきているし、同じことをやっていてもしょうがないと思う。
1つ挙げるならば、歌い方を変えたいです。実はこれまでも5年単位くらいで緩やかに歌い方を変えているんですよ。
声は楽器であるけれど、1つしか持てないから、どうしても飽きてくる。ギターを持ち替えるような感じで歌声を持ち替えるような。
30代になってもう少し違った歌の聴かせ方ができたらいいなとここ最近はすごく思っています。


米津玄師

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